「やる気がない」のではなく「やる余裕がない」——自己啓発が進まない本当の理由
「働きながらスキルアップしよう」
「自分のキャリアは自分で切り拓こう」
そんな掛け声はもう何年も前から言われ続けています。しかし、現実はどうでしょうか。
労働政策研究・研修機構が2024年3月に実施した調査によると、
「自己啓発をしている」と答えた人は、わずか14.9%。
逆に言えば、85%以上の人が「何もしていない」ということです。
さらにその理由を尋ねると、最も多かったのは「仕事が忙しくて時間が取れない」(32.8%)。
次いで「会社で評価されない」(26.1%)、「費用が負担できない」(21.5%)と続きます。
この数字は、単なる「やる気のなさ」を示しているわけではありません。
むしろ見えてくるのは、時間も、金銭的余裕も、精神的な安心感も奪われている働く人々の姿です。
■ 「時間がない」は甘えではない
一見して「時間がない」はよくある言い訳のように見えるかもしれません。
でも、実際には「定時後も気が抜けない」「休日もメールが飛んでくる」
といった状況で働いている人は少なくありません。
“残業時間は減ったけど、業務量は変わっていない”という職場も多く、
表面的な働き方改革のしわ寄せが、自己啓発どころではない現実を生んでいます。
■ 「評価されない」は冷静な現実認識
「自己啓発しても昇進に関係ない」「資格を取っても給料は変わらない」。
そんな声もよく聞かれます。
それは決して投げやりな言葉ではなく、実際に自分の会社が何を見て評価しているのかを、
従業員が冷静に見ている証拠とも言えるのです。
努力が報われない環境で、「もっと頑張れ」という言葉だけが宙を舞っても、人は動けません。
■ 自己啓発の壁は「個人の問題」ではない
この調査結果は、自己啓発が個人のやる気や根性だけではどうにもならないことを示しています。
時間、評価、経済的余裕——
どれもが職場の制度や風土に大きく左右されるものです。
それでも「やらないのは本人の責任」とする風潮が残る限り、
働く人はますます追い詰められ、何も変わらないでしょう。
■ 「自分のために学ぶ」を支えるには
企業が本気で人材育成を考えるなら、まず「やれ」と言う前に、
「やれる環境を整える」ことが先です。
・残業のない時間帯に研修を設ける
・資格取得を評価制度に組み込む
・学びの費用を会社が負担する
そんな仕組みがあるだけで、「いつかやりたい」が「今やってみよう」に変わるかもしれません。
■ 結論:「やらない人」ではなく「やれない環境」を変えるべき
自己啓発をしない理由が「やる気」ではなく「余裕のなさ」だとしたら、
問うべきは本人ではなく、社会や職場がどれだけそれを支えているかです。
「自己責任」で片づける前に、今一度考えたい。
私たちは、学び続けられる社会に本当に近づいているのかを。