「定年まで働きたい」はもはや少数派──それでも企業は“長く働ける人”を求める矛盾
若者は「定年」ではなく「自分の人生」を見ている
2025年度の新入社員を対象にした意識調査で、
「今の会社に定年まで働きたい」と答えた人はわずか24.4%にとどまりました。
10年前は36.3%だったので、10年で約12ポイント減少したことになります。
一方、「チャンスがあれば転職したい」と考える人は25.7%と、
「定年まで働きたい」人を上回りました。この割合も10年前の11.6%から大きく増加しています。
この数字を見て、「最近の若者はすぐ辞めたがる」と嘆くのは簡単ですが、それは見当違いです。
若者が見ているのは、“会社での終身”ではなく、“自分の人生の長期的な幸福”です。
「定年まで働く」=「会社に尽くす時代」は終わった
「定年まで働きたい」という意識の低下は、
単なる気分や世代間の価値観の違いではありません。会社側の都合による変化でもあります。
・リストラや早期退職が当たり前
・ジョブ型雇用や成果主義の拡大
・年功序列や終身雇用の崩壊
企業が社員に「長期雇用の安心」を提供しなくなった今、
社員が「定年まで働く前提」でキャリアを考えなくなるのは当然の流れです。
それにもかかわらず、採用現場では「長く勤めてくれる人」を求める傾向が根強く残っています。
企業は「短期視点の経営」を進めながら、「長期的な社員の忠誠心」だけは望んでいる。
この構造そのものが、若者にとっては大いなる矛盾に映っているのです。
「会社を辞める」はネガティブではない
今や、転職やキャリアの転換は、成長や自己実現の一部です。
だから「チャンスがあれば転職したい」と答える人が増えているのは、
単に会社を見限っているのではなく、自分の可能性を閉じたくないという健全な感覚です。
裏を返せば、「定年まで働きたい」と答えた人が減っているのは、
「今の会社がそれに値する」と思えないからかもしれません。
新入社員が会社を信頼していない――そう受け止めるべきではないでしょうか。
本質は「信頼の再構築」
この調査結果が示す本質は、「若者が変わった」のではなく、
「会社が変わり、それに対応しているだけ」だということです。
企業が若手を「すぐ辞める人」として疑うのではなく、
「この会社で人生を賭ける価値がある」と思ってもらえるような環境をつくれるかどうか。
その努力なしに、「長く働いてほしい」と願っても響きません。
「定年まで働きたい」が少数派になった今、
企業も個人も、“会社が人生のすべてではない”という前提で関係を築く必要があります。
信頼と柔軟さを前提とした、新しい雇用関係をどうつくるか。
それこそが、今この数字から私たちが読み解くべき「本当の問い」なのです。