年金制度は、誰の未来に寄り添っているのか――第3号問題の本質
「第3号被保険者制度の見直しが必要かどうか」
この問いは、何年も前から繰り返されてきたが、いまだに抜本的な改革には至っていない。
制度の恩恵を受けている層からの反発を恐れ、政治も行政も正面から切り込めない。
だが、もはや「見直すかどうか」といった二項対立の枠では語れない。
本当に問うべきは、「年金制度が誰の未来に寄り添っているのか」である。
■ 130万円の壁が問いかけるもの
第3号被保険者制度とは、会社員や公務員など厚生年金に加入している人に扶養されている配偶者が、
年収130万円未満であれば、自ら保険料を払わなくても国民年金の受給資格を得られるという仕組みだ。
これはかつて、専業主婦が一般的だった時代の「家庭モデル」に支えられて成立していた。
しかし今、社会の姿は大きく変わっている。
共働きが当たり前となった社会で、「130万円を超えると損をする」という
就労調整を余儀なくされている女性は少なくない。
つまり第3号制度は、「無償で守られる立場」を維持するために、
働き方やキャリア形成を犠牲にしている構造だとも言える。
■ 制度に“取り残されている”人がいる
第3号制度の最大の問題は、その恩恵を受ける人だけが守られ、
それ以外の人々――たとえば自営業者やフリーランス、
あるいは非正規で130万円を少し超えてしまった人々――が
何の説明もなく不利な立場に置かれていることだ。
年金保険料を自分で納め、将来もらえる年金も少ない。
だが、その人たちが第3号の分まで間接的に支えている現実がある。
■ 政策の本質は「都合」ではなく「未来」への配慮
制度を支える根拠が「過去の家庭モデル」にある限り、
それは現在や未来の多様な生き方に背を向けた制度であり続ける。
第3号を守るべきか、切るべきかという短絡的な議論ではなく、
「この制度は、これからの社会で増えるであろう人たち——たとえば独身者、共働き家庭、
キャリア志向の女性、自営業やフリーランス——にとってどう映るのか」を真剣に問うべきだ。
制度が寄り添うべきは、声の大きい既得権ではなく、これからの生活者のリアルである。
■ 支え合いの仕組みに立ち返る時
年金制度は、世代間・所得間・性別を超えて支え合う仕組みでなければならない。
だれかが得をし、だれかが損をする制度ではなく、お互いが納得し、信頼できる制度であることが、
持続可能性の条件である。
第3号制度の見直しとは、特定の制度を是とするか非とするかの話ではない。
「年金制度が誰にとって公正で、誰の未来に光を灯すか」という問いに、
私たち自身がどう向き合うかの話なのだ。
■ 問い直しの先にある制度設計を
制度は変わる。
だが、何のために変えるのかが曖昧なままでは、新たな不満と分断を生むだけだ。
「制度は誰の未来に寄り添っているのか?」
この問いに誠実に向き合うことから、ようやく制度の再設計は始まる。