厚生労働白書が伝えたいメッセージ

厚生労働省が公表した令和7年版白書は、
一見すると「若者に社会保障や労働施策の役割を理解してもらおう」という
教育的なメッセージに満ちています。
医療や年金、介護の仕組みを学ぶことは大切で、知識を持つことが社会生活の助けになる——。
確かにそれは正しいことです。

しかし、白書の本当の背景にはもっと切実な事情があります。

  1. 「支える人」が足りなくなる現実

日本は少子化と人口減少の渦中にあります。
社会保障を受ける高齢者は増え続ける一方で、支える若い世代は急速に減っています。
つまり、年金や医療、介護といった制度そのものが、
これまでの形では持たないことが分かっているのです。

白書が「全世代型社会保障」を強調するのは、
「高齢者中心」から「みんなで負担し合う形」に変えざるを得ないからです。
裏を返せば、「若者にももっと負担してもらわないと制度は続かない」という危機感があるのです。

  1. 若者の「関心」と「理解」を高めたい理由

調査結果では、高校生や若者の多くが社会保障や労働制度に関心を示している一方、
制度内容の理解度は半分程度にとどまることが明らかになりました。
ここで国が「教育を通じて理解度を高めよう」としているのは、
単に知識を増やしてもらうためではありません。
将来、税金や保険料を納める当事者になる若者に「制度を支える覚悟」を持たせたい、
という狙いがあります。

  1. 「きれいごと」ではなく現実を直視する必要

白書は「社会をみんなで支える意義」を前面に出しますが、
現実には「増え続ける負担をどう分け合うか」という厳しい課題が横たわっています。
負担は確実に増える。年金や医療が今の水準で維持される保証はない。
にもかかわらず「支え合いの大切さ」を語るだけでは、若者の共感を得ることは難しいでしょう。

  1. 本当に必要なのは「納得感」

社会保障は「知識」よりも「納得感」が大切です。
負担が重くても「公平で仕方がない」と思えれば、人は支え続けることができます。
しかし、不公平感や不信感が広がれば制度は立ち行かなくなります。
つまり本当に必要なのは「教育」だけでなく、
「制度そのものをどう変えるのか」という政治的な意思決定と、それを若者に正直に伝える姿勢です。

まとめ

今回の白書が伝えているのは、
「制度は変わらざるを得ない。若者にもその担い手になってほしい」というメッセージです。
しかしその言い方は、どうしても「表向ききれいにまとめた説明」になっています。
若者に必要なのは「社会保障を学ぶ」ことだけではなく、
「なぜ今の制度が行き詰まっているのか」「どこをどう変えるのか」という現実的な議論です。

未来を担う世代に「支えてほしい」と言うのであれば、
国もまた「何を守り、何を変えるのか」を真正面から語るべきときに来ています。

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