小規模事業所のメンタルヘルス対策が進まない理由
厚生労働省の調査によれば、
労働者50人以上の事業所では9割以上がメンタルヘルス対策を実施している一方で、
10~29人規模の事業所では半数程度にとどまっています。
数字を見れば一目瞭然ですが、ここには小規模事業所ならではの“現実”が横たわっています。
まず、50人以上の事業所には「ストレスチェックの実施義務」があります。
法令で定められている以上、組織として仕組みを整えざるを得ません。
しかし、それ以下の規模では義務がないため
「余裕があればやる」「人手や予算がある範囲でやる」という扱いにとどまります。
また、小規模事業所は人事部や専門部署がなく、
経営者自身が労務管理を兼ねるケースも少なくありません。
限られたリソースのなかで、売上確保や日々の業務が優先され、
心のケアは「大事だと分かっていても後回し」になりがちです。
さらに、従業員同士の距離が近い職場ほど「声をかけ合えば大丈夫」と思われやすく、
体系的な対策に結びつきにくいという側面もあります。
つまり、「小さい会社ほど人間関係が密で目が届きやすい」という強みがある一方で、
「制度的に守られにくい」「外部の専門支援にアクセスしにくい」という弱点を抱えているのです。
調査の数字は単なる現状報告に見えますが、裏を返せば「働く人の半分近くは、
職場に明確なメンタルヘルス対策が存在しない環境にいる」ことを示しています。
働き方改革や健康経営が叫ばれる時代にあっても、
小規模事業所ではまだ“個々人の頑張りに頼った職場づくり”が続いているのが実態といえるでしょう。