医師の働き方改革、「影響なし」が半数──この数字をどう読むか
四病院団体協議会の最新調査によれば、2025年度の医師の働き方改革に関して、
「診療体制への影響は生じていない」と答えた病院が全体の約半数(50.1%)に上った。
一見すれば、「改革は順調に進んでいる」と感じられる数字だ。
しかし、現場を知る者からすれば、むしろこの“半数”という結果に違和感を覚える。
「影響なし」と言えるのは、まだ“表面上”だから
医師の働き方改革は、長時間労働の是正を目的とし、
時間外労働の上限規制(年間960時間、特例あり)が導入されるという、
医療現場にとって歴史的な転換点だ。
だが、診療体制に「影響なし」と言い切れる病院が半数もあるというのは、本当に良いことなのだろうか。
現場を取材すると、「まだ本格的に制度が適用されていない」
「勤務時間管理の仕組みづくりがようやく整った段階」という声が多い。
つまり、“実際の運用が始まっていない”ため、表面上の数字では「影響が出ていない」だけなのだ。
制度が完全に回り始めた時、果たして同じ回答ができる病院がどれほど残るだろうか。
「持ちこたえている」現場の努力
医師の業務を減らすには、単に残業を制限するだけでは足りない。
看護師や事務職、医療クラークとの業務分担、外部委託、ICTの導入など、
地道な“仕組みづくり”が欠かせない。
実際、「影響なし」と答えた病院の多くは、すでにこの分業体制を先行して整えてきたところだ。
つまり、“影響が出ていない”のではなく、“出ないように必死に対応している”のである。
その努力の裏で、人的・財政的負担は確実に増している。
「診療体制に影響はないが、医師以外のスタッフの負担は増えた」という声も少なくない。
これをもって「改革が成功している」とは、とても言えないだろう。
「今後影響が出る可能性あり」=23.3%という現実
注目すべきは、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した23.3%の病院だ。
この数字は、まさに“予備軍”である。
制度が本格施行されたとき、急にシフト制が回らなくなる、
夜間・救急体制の維持が困難になる──そうした事態が現実化する可能性を示している。
地方の中小病院や医師偏在地域では、すでに「一部診療科の休止」「当直体制の縮小」
といった動きが出始めている。
それを“地域医療の崩壊”と呼ぶのは早計かもしれない。
しかし、“ひずみ”は確実に始まっている。
改革の本当の評価は「2026年」以降に問われる
今回の調査結果は、制度導入直前の“静かな表面”を映したに過ぎない。
本当の意味での影響は、2026年、2027年──実際に運用が定着した頃に現れてくるはずだ。
数字だけを見て「問題なし」と判断するのは、あまりに危うい。
医師の働き方改革は、単なる「労働時間の短縮」ではなく、医療提供体制の再構築そのものだ。
それを成功させるためには、医師だけでなく、看護師、事務、自治体、患者──社会全体で
支える視点が欠かせない。
今必要なのは、“影響なし”という数字に安心することではなく、
“どうすれば影響を最小限にできるか”を、現場と共に考えることだ。
数字の奥にある現場の努力を見よ
「影響なし」という数字の裏には、現場の努力と限界が隠れている。
医師の働き方改革は、まだ始まったばかり。
この先、制度が現実とどう噛み合うか──その行方を見誤らないためにも、
私たちは数字ではなく“現場の声”を見続けなければならない。

