「離職率が下がった」だけで本当に安心していいのか?──看護職員を取り巻く構造的課題とは
「看護師の離職率が改善した」。
日本看護協会が発表した調査結果を見て、ほっとした人もいるかもしれません。
正規雇用の看護職員の離職率は11.3%と、前年より0.5ポイント減少。
新卒は8.8%、既卒は16.1%と、いずれも改善傾向にあります。給与もわずかに増えています。
でも、それで現場が救われたと言えるのでしょうか?
実態を知る看護師の声を拾えば、「毎日ギリギリ」「辞めたいと思わなかった日はない」
といった言葉が、今も普通に出てきます。
離職率が“微減”したところで、構造の根本は何も変わっていない可能性があるのです。
■ 離職率の「改善」は何を意味するのか
まず押さえておきたいのは、「離職率が下がった=働きやすくなった」ではないという点です。
改善の背景には複合的な要因が考えられます。
たとえば:
他業界への転職が難しくなった(経済状況の悪化)
コロナ禍後の業務変化にようやく慣れてきた
「今すぐ辞めたいけど、辞められない」事情のある人が増えている
これらは必ずしもポジティブな要因とは言えません。
むしろ、「辞めたくても辞められない」という“静かな悲鳴”が反映されている可能性だってあります。
■ 給与の微増で「改善」と言えるのか?
たしかに、給与は少し上がっています。
新卒看護師の平均基本給は28万4,063円と、前年比で約9,000円の増。
勤続10年の看護師も約7,600円増えています。
しかし、現在の物価高や労働負担に見合った水準かと言えば、疑問です。
夜勤、長時間勤務、感情労働、患者家族との対応、時には命に直結する判断……。
その重さを考えれば、たとえ月給が30万円を超えていても、
「報われている」と感じている人は少ないでしょう。
■ 本当に見るべき数字は「離職率」ではない
離職率が改善したことは、確かに一つのポジティブなサインかもしれません。
しかし、それだけで「職場環境が良くなった」と結論づけるのは早計です。
本当に見るべきは、次のような指標ではないでしょうか。
・有給取得率
・夜勤の頻度と連勤回数
・感染症対応や災害時の労働環境
・精神的サポート体制(メンタルヘルスケア)
・職場内でのハラスメントの実態
・「辞めたくても辞められない」看護職員の割合
「離職していないから満足している」は幻想に過ぎません。
■ 本質的な改革が必要
いま必要なのは、「辞めさせない工夫」ではなく、「続けたくなる環境」の整備です。
それは、一時的な給与アップや離職率の数字でごまかせるものではありません。
人手不足だからこそ、現場の声に耳を傾けること。
制度ではなく「人」を中心に据えた改革を進めること。
この視点を欠いては、
いつまでたっても「数字はよくなったが、現場は苦しいまま」の状態が続くでしょう。
■おわりに
数字に安心せず、現場に目を向けましょう。
一見ポジティブに見える統計の裏にある「静かなSOS」に気づけるかどうか。
それこそが、医療の未来を左右する、本質的な視点ではないでしょうか。