「働き方改革」数字が語る、行政と現実の深い断絶

「国民のため」「働く人のため」。
時間外労働の上限規制は、そうした美しい言葉とともに導入された。
理念としては正しい。
だが、現場は理念だけでは回らない。
東京商工会議所のアンケート結果は、その当たり前の事実を、はっきりと突きつけている。

調査によれば、時間外労働上限規制によって「支障が生じている」と
答えた企業は全体の約2割にとどまる。
一見すると、「大きな問題ではない」と言いたくなる数字だ。
しかし、ここで平均値に逃げた瞬間、この調査の意味は失われる。

問題は業種別の内訳だ。
宿泊・飲食業では55.6%、運輸業では54.7%。
半数を超える企業が、すでに回らなくなっている。
これは「一部が困っている」という話ではない。
その業界にとっては、制度そのものが現実に合っていないという警告だ。

では、なぜ対応できないのか。
理由は極めて単純で、しかも誰もが知っていることだった。
「全社的な人手不足」。これが約6割を占める。

ここに、行政と現場の決定的なズレがある。
人が足りないのに、「残業は減らせ」と言われる。
人が集まらない業界に、「工夫で乗り切れ」と言われる。
これは改革ではない。現場への丸投げだ。

月45時間を超える残業は年6か月まで。
紙の上では公平で、整って見える。
しかし、繁忙期がはっきりしている業界にとって、この線引きは現実を無視した数字遊びに近い。
観光シーズン、年末年始、物流のピーク。
そこに「規制だから」の一言でフタをしても、仕事そのものは消えない。

結局、何が起きるか。
現場の責任者が無理をする。
人が辞める。
サービスの質が落ちる。
そして「人手不足」がさらに深刻化する。
制度が原因で問題を増幅させている構図だ。

ここで問うべきは、「規制が必要かどうか」ではない。
なぜ、支障が出るとわかっている業界に対し、同じ物差しを当て続けるのか。
なぜ、「守れない現実」を前にして、制度の側が立ち止まらないのか。

言われたことにだけ対応し、結果には責任を取らない。
それは、企業で言えば評価されない社員の仕事ぶりだ。
残念ながら、今の行政にはその姿が重なって見える。

この調査結果は、失敗の証明ではない。
無視され続けてきた現場の悲鳴が、ようやく数字になったというだけだ。
次に必要なのは、きれいなスローガンではない。
現実を直視し、「制度のほうを変える」という、当たり前の覚悟である。

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