有給休暇「過去最多」の数字が語らないこと
厚生労働省が昨年12月に公表した調査結果によれば、
令和6年に労働者が取得した年次有給休暇の平均日数は12.1日となり、過去最多を更新したという。
取得率も66.9%と、こちらも過去最高だ。
数字だけを見れば、日本の働き方は着実に改善しているように映る。
しかし、この結果をそのまま「良くなった」と受け取ってよいのかは、
少し立ち止まって考える必要がある。
同じ調査で、企業が労働者に付与している有給休暇の日数は平均18.1日とされている。
つまり、取得されたのはそのうち約3分の2で、残りは使われないまま残っている。
過去最多とはいえ、「十分に取れている」と言える水準かどうかは判断が分かれるところだ。
また、この調査の対象は、常用労働者30人以上の民営企業に限られている。
中小零細企業や非正規雇用が多い職場の実情は、この平均値には含まれていない。
比較的制度が整っている企業の結果を集計した数字であることは、頭に入れておく必要があるだろう。
取得日数が増えた背景も見逃せない。
2019年から、企業には年5日の有給休暇を確実に取得させることが義務づけられた。
罰則を伴う制度変更であり、今回の数字の押し上げ要因になっているのは間違いない。
これは労働者の意識が大きく変わった結果というより、制度によって底上げされた側面が強い。
ここで問われるのは、「数字が増えたこと」そのものではない。
なぜ、付与された休暇のすべてが使われないのか。
なぜ、有給を取ることに今も心理的なハードルがあるのか。
なぜ、忙しさや職場の雰囲気が理由で、休みを諦める人が後を絶たないのか。
こうした現場の感覚は、統計には表れにくい。
だが、働く人の実情を考えるうえで、本来もっと注目されるべき点でもある。
行政の発表は、事実を淡々と伝えるという点では間違っていない。
しかし、「過去最多」という言葉だけが一人歩きすると、
課題が解決されたかのような印象を与えてしまう。
実際には、改善の入口に立ったに過ぎないとも言える。
有給休暇は、本来、特別な配慮や遠慮を必要としない権利だ。
数字の更新に満足するのではなく、なぜまだ十分に使われていないのかという問いに向き合うこと。
そこから先に、本当の改善が見えてくるのではないだろうか。

