定年後の選択肢──「雇用延長」「転職」「引退」が拮抗する理由と、企業が見落とす本質

産業雇用安定センターが発表した最新の意識調査によると、
定年後の希望として「転職・独立」「引退」「雇用延長」がほぼ同率という結果が出た。
この「三すくみ」の状況は、単なる個人の希望の多様化ではない。
むしろ、いまの雇用制度が“どの選択肢にも決め手を欠いている”という現実を映し出している。

■「雇用延長」は“延命策”であって“キャリア設計”ではない

多くの企業では65歳までの雇用延長制度が整備されているが、
現実は「給与は半減、責任はそのまま」あるいは「役職定年後の名ばかり再雇用」が少なくない。
社員にとってそれは“居場所の延長”であって、“やりがいの延長”ではない。
この状況では、モチベーションの維持どころか、本人も企業も「惰性の関係」に陥る。
「雇用延長を希望」と答えた人の中には、積極的な選択というより、
「他に現実的な選択肢がない」層が相当数含まれているとみるべきだ。

■「転職・独立」に踏み出す人の“本音”は希望よりも危機感

調査では、「新しい仕事に挑戦したい」という前向きな動機が多い一方で、
「役職定年や定年による待遇低下への不安」から転職を希望する声も約2割に上った。
要するに、“夢”よりも“現実への備え”としての転職だ。
定年前に年収が大きく下がる構造が続く限り、社員は社内キャリアを描きにくくなる。
その結果、「今の会社にしがみつくより、自分の市場価値を試した方がまし」という判断が生まれる。
これは個人のわがままではなく、制度の歪みが生んだ“合理的な防衛反応”である。

■「引退」志向の背景にある、“疲弊”と“達成感の欠如”

一方、「定年を機に働くのをやめたい」と考える層も3割近くいる。
これは決して“ゆとり世代的な逃避”ではない。
長年の激務や成果主義の波をくぐり抜けてきた世代にとって、
「これ以上、変化に追われたくない」「達成感のないまま延長戦を続けたくない」
という疲弊感が根底にある。
企業がこの声を「モチベーション低下」と切り捨てるのは簡単だが、
それでは貴重な熟練人材を丸ごと失うことになる。

■企業がいま取り組むべきは、「延長」ではなく「再設計」

定年後の選択肢が拮抗しているということは、どのルートにも“魅力がない”ということの裏返しだ。
企業が真に取り組むべきは、単なる雇用延長ではなく、“キャリア再設計”の仕組みである。
たとえば、

50代前半からの「キャリア棚卸し」支援

他社や地域団体との人材シェア・マッチング機会の提供

再雇用後の職務設計を、本人と会社の双方で納得できる形に再構築する
といった取り組みが求められる。

定年後も働きたい人が増えているのではない。
「どう働けばいいかわからないまま、定年を迎える人が増えている」のである。
企業も個人も、70歳雇用時代を迎える前に、この“構造的な迷い”に向き合う必要がある。

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