健保組合の赤字問題――“将来へのツケ”をどう解消するか?
令和5年度、健保組合の過半数が赤字になるという衝撃的な見通しが発表されました。
健康保険組合連合会のデータによると、全体の約53%にあたる726組合が赤字となり、
合計赤字額は1,367億円に達する見込みです。保険料収入は賃上げ効果で増えたものの、
保険給付費や高齢者医療への拠出金がさらに増加し、赤字に転落しました。
この数字を見ると、「大変だ」という感想で終わりがちですが、
この問題の背後には、日本の社会保障制度全体が抱える構造的な課題が潜んでいます。
●保険料収入が増えたのになぜ赤字?
賃上げによって保険料収入は前年比2.7%増加しましたが、支出がそれを大きく上回りました。
その主な要因は以下の通りです。
・医療給付費の増加:コロナ禍が落ち着き、呼吸器系疾患などの診療が増加した結果、
給付費が前年比5.3%増加しました。
・高齢者医療拠出金の急増:高齢化の影響で、後期高齢者医療制度への拠出金が前年比7.3%も増加しました。
つまり、現役世代が支払う保険料で高齢者医療を支える仕組みが、赤字の根本的な原因となっています。
●健保組合の負担はどこまで耐えられるのか?
令和6年度の赤字はさらに拡大し、1,700億円に達するとの推計があります。
これ以上の赤字が続けば、多くの組合が保険料率の引き上げを余儀なくされるでしょう。
しかし、現在の平均保険料率(9.27%)はすでに家計に重い負担を強いています。
保険料率がさらに上がれば、働く世代の可処分所得が減少し、経済成長にも悪影響を与える懸念があります。
●構造的な解決策が必要
この問題を解決するには、単に「賃上げして保険料収入を増やせば良い」という短期的な対策だけでは不十分です。
以下のような構造的改革が求められます。
高齢者医療費の自己負担見直し:一定以上の所得がある高齢者に対し、自己負担割合を引き上げる。
予防医療の推進:生活習慣病の予防や早期発見を進め、医療費全体の削減を図る。
医療提供体制の効率化:デジタル技術やAIを活用し、無駄のない医療提供を目指す。
●未来世代への影響を考える
健保組合の赤字問題は、今の現役世代だけでなく、将来の世代にも大きな負担を残すことになります。
目先の赤字解消だけでなく、10年後、20年後を見据えた制度設計が必要です。
高齢者と現役世代の負担のバランスを見直し、社会全体で持続可能な制度を構築することが急務です。
この課題に真剣に向き合うことが、未来の社会をより良いものにする第一歩になると思います。