ストレスチェックの本当の効用とは
「ストレスチェック、受けましたか?」
定期実施されるこの制度。
質問票に「はい」「いいえ」と答えていくと、
「あなたは高ストレス者です」とか「問題なし」とか、診断らしきものが表示されます。
しかし正直に言えば、多くの社員は「この答えを選ぶとまずいだろう」と察して、
無難な選択肢を選びます。つまり、本音より“空気”が反映される仕組みになりがちです。
健康診断を思い出してみてください。
血液検査や心電図など、客観的なデータが診断の根拠になります。
一方、ストレスチェックは自己申告だけ。精度という点では、どうしても限界があります。
では、経営者としてはどう向き合えばよいのでしょうか。
「個人結果は本人にしか返されない。経営者は何もできない」――そう思ってしまうかもしれません。
確かに直接的に個人の状態を知ることはできませんが、
それでも企業にとって有効に使える方法があります。
- 集団データを“経営数字”として扱う
ストレスチェックでは部署単位や全社単位での傾向がフィードバックされます。
・どの部署が「業務量の負担」を強く訴えているのか
・どの部門が「人間関係のストレス」を多く抱えているのか
こうした傾向は経営のヒントになります。
業績や離職率と並べて見ると、「業績が停滞している部署はストレスも高い」
といった相関が見えることもあります。これは経営者にとって無視できないデータです。
- “匿名の声”を拾う仕組みを足す
制度上の設問だけでは深い部分に届きません。
そこで匿名アンケートや外部相談窓口を併設し、
「数字」と「自由意見」の両方を集める仕組みにすると、現場の実態がより浮き彫りになります。
- 結果を“構造改善”の入口にする
大切なのは「誰が高ストレスか」ではなく「なぜその部署でストレスが高いのか」です。
・業務の偏り
・上司のマネジメントスタイル
・評価制度の不透明さ
こうした組織の問題が見えれば、改善は経営課題そのものになります。
- 経営者が“本気”を示す
最後に欠かせないのはトップの姿勢です。
結果を社員に返して終わりでは意味がありません。
「来期は休暇取得率を経営指標に組み込む」
「業務負荷の集中を防ぐ仕組みをつくる」
こうしたメッセージを発信すれば、社員は「この会社は本気で環境改善に取り組んでいる」と感じます。
ストレスチェックは、表面的に見れば「形だけの制度」に見えるかもしれません。
しかし経営者が「こなす」から「活かす」に切り替えれば、
組織の健全性を測るひとつの経営資源になります。
結局、制度が会社を良くするのではありません。
制度をどう使うかを決めるのは、経営者の意思そのものなのです。