「老後は自己責任」シミュレーター? ー 年金制度の"限界宣言"を読み解く

4月23日、厚生労働省が「公的年金シミュレーター」に
iDeCo(個人型確定拠出年金)の試算機能を追加する案を発表した。
公的年金だけでは不安だから、という前提に立っての追加機能だ。

だが、それは言い換えれば、「年金だけでは老後は賄えません」と
政府が遠回しに宣言したようなものではないか。

これまでも、「自助努力」や「資産形成」の重要性は繰り返されてきた。
だが、今回の発表はもっと直接的である。
国が提供する年金試算ツールに、
わざわざ民間に近い制度であるiDeCoのシミュレーションを組み込むというのだ。
つまり、「年金制度があるから安心」ではなく、
「年金制度があるけど、それじゃ足りないから自分でなんとかしてね」という立場に、
政府は明確に舵を切ったのだ。

■ 「制度は守る」と言いつつ、実は縮退モード
厚労省は建前として、「年金制度は将来にわたって持続可能」と繰り返している。
だが、その裏で進む制度の「個人責任化」。

たとえば:
・年金支給開始年齢の実質的引き上げ
・受給額の実質減少(マクロ経済スライド)
・「長く働くほど得」と言いながら定年延長は企業任せ

これらを受け、国民の間にじわじわと広がる「年金だけでは無理」という共通認識。
その不安を解消するどころか、「じゃあ、iDeCoで補ってね」という今回のようなツール追加が、
政府の本音を雄弁に語っている。

■ わかりにくい“改善”が生む逆効果
そもそも今回の発表文は極めてわかりにくい。
・誰のために何を改善するのか
・なぜiDeCoをここで組み込むのか
といった「だから何なのか」が全く見えてこない

年金制度という、国民生活に直結する問題において、
「見せかけの利便性」や「体裁のよいツール改善」ではなく、
制度の根幹と向き合う説明が求められているはずだ。

■ 本当に必要なのは、正直な対話と選択肢の提示
今、必要なのは「何がどこまで保障され、何を自助で賄う必要があるのか」
という国家と国民の率直な合意形成だ。
中途半端なシミュレーターの“便利機能”追加ではなく、国としてどのような老後の絵を描くのか、
その絵に国民がどう向き合うのか、という正面からの議論が不可欠だ。

「あなたの老後は自分で守ってください」と言うならば、
その代わりにもっと分かりやすく、もっと正直に語る義務があるのではないか。

■終わりに
今回のシミュレーター改善案が意味しているのは、制度の前進ではなく、
むしろ「制度の限界を装った撤退戦」だ。
我々に求められているのは、「見えにくい希望」を探すことではない。
曖昧な制度の言葉をはっきり翻訳し、自分の生き方にどう向き合うかを選ぶことである。

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