「医師の働き方改革」は絵に描いた餅か? ― 外科医6割「時間外労働は不変」の現実

2024年4月、ついに医師にも「時間外労働の上限」が適用された。
政府が掲げる「医師の働き方改革」の本格始動である。
だが、ふたを開けてみれば、
日本外科学会のアンケート調査(回答数6,245人)で明らかになったのは衝撃的な現実だった。

なんと約6割(60.3%)の外科医が「時間外労働は変わらなかった」と回答したのである。
「やや減った(17.0%)」「大幅に減った(2.1%)」と答えたのはあわせて2割足らず。
むしろ「やや増えた(11.7%)」「大幅に増えた(3.3%)」という声もあり、
改善どころか悪化しているケースすらある。

これはいったい、どういうことか。

■「制度」は作った、でも「現場」は変わらない
そもそも外科医の仕事は、時間で区切れるものではない。
予定手術の後に緊急手術が飛び込むこともある。
夜中に患者の容態が急変すれば、当直明けでも病院に駆けつける。
そうした責任感と使命感に支えられて医療は成り立ってきた。

だが、制度の側は「月160時間まで」「年960時間まで」という数字だけを一方的に押しつける。
結果、“現場の努力頼み”で改革が進まないのは当然だ。

むしろ、医師に「働くな」と言いながら、代わりの人手も予算も確保されていない。
業務は減らず、人は増えず、でも時間だけは減らせ――そんな矛盾を誰が守れるというのか。

■ 本当の問題は「外科医が減っている」こと
改革が形骸化している理由の一つは、「誰かが代わりをやってくれるだろう」という幻想にある。
しかし現実には、外科医はすでに減少傾向にある。
激務である上に、医療訴訟リスクも高い。
若手医師はよりワークライフバランスの取れた科を選ぶようになっている。

つまり、今いる外科医に頼りきりの状態で、「働くな」と言っても、
そのしわ寄せは患者と残された医師に返ってくる。

■ 患者に“しわ寄せ”が行く未来
このままでは、どうなるのか。

簡単だ。手術の順番待ちは長くなり、緊急対応は減り、結果として命を落とす人が増えることになる。
そして外科医本人も過労で体を壊し、やがて職場を去っていく。

「働き方改革」は医師の健康を守るためのはずが、現場を無視すればむしろ医療を壊す凶器になる。

■「時間管理」より「チーム改革」を
では、どうすればいいのか。
もはや「個人努力」や「根性論」ではなく、医療現場そのものの再構築が必要だ。

・一人の医師に業務が集中しないよう、タスクシェア・タスクシフティングを徹底する
・外科系の人材育成に国家的投資を行う
・地域偏在を是正し、一部の病院に過重負担が偏らないようにする

制度と現場がずれている限り、どれほど立派な改革を叫んでも、外科医たちは潰れ続ける。

改革は始まったばかりだ。
だが、「数字を守ったふり」をするだけなら、それはただの自己満足に過ぎない。

本当に守るべきは、“働く時間”ではなく、“医療の持続可能性”ではないか。

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