高年齢雇用継続給付「引き下げ」の本当の意味
「高年齢雇用継続給付」の支給率が、2025年4月から最大15%→10%に引き下げられました。
この5%の引き下げは、数字だけ見ると大したことがないように思えるかもしれません。
でも、これは単なる「率の変更」ではありません。
60歳を超えても働き続ける人たちにとっての心理的・経済的なメッセージの変化なのです。
■ 高年齢雇用継続給付って何?
この制度は、60歳以降、現役時代より給料が25%以上下がっても
働き続ける人たちを支えるために作られました。
たとえば、60歳で給与が40万円から30万円に下がっても、
「働き続けよう」と思う人に対して、給付金を支給する仕組みです。
従来は最大で賃金の15%が支給されていましたが、
2025年4月からは最大10%までに。つまり、給付は3分の2に減ったことになります。
■ いつから誰が対象なの?
・2025年3月31日以前に60歳になった人 → 旧制度(最大15%)の対象
・2025年4月1日以降に60歳になる人 → 新制度(最大10%)の対象
ただし、過去に雇用保険の被保険者だった期間が5年未満の人は、
この日付に関係なく、「5年に達した日」が基準になります。
■ なぜ下げたの?そして、それは妥当なのか?
政府の説明としては、
「働く高齢者が増えた」
「企業も雇用を維持しやすくなった」
「もう支援を厚くしなくても大丈夫」――そんな理屈が並びます。
でも、現場はどうでしょうか?
60歳を超えた労働者の多くは、年金の支給開始までの“つなぎ”としてこの給付を頼りにしています。
給料が下がっても働き続けるのは、生活のためです。
そして企業側も、「給付があるから再雇用しても社員の手取りはそれなりに確保できる」と
考えてきたはず。
つまり、このたった5%の削減が、「もうそんなに支援しなくていいでしょ?」
というメッセージになってしまうのです。
■ 「努力は自己責任」と言われてしまう時代に
60歳以降も働くのが当たり前になる一方で、その働き方を支える仕組みが少しずつ削られていく。
これでは、「自分で何とかしろ」という空気ばかりが強くなります。
年金支給開始はどんどん先送りされ、現役時代と比べて賃金は大きく下がり、
それでもなお「頑張って働き続けてくれ」と言われる――。
その背景には、給付削減によって“見えないプレッシャー”が強まっている構図があります。
■ 最後に:この変更が投げかける問い
この5%の引き下げは、単なる制度の調整ではなく、
「高齢者の働き方をどう支えていくか」という社会の姿勢の現れです。
「働き続けても報われる社会」を本気で目指すなら、単なる“支給率の見直し”ではなく、
もっと根本的な議論――たとえば、賃金設計、再雇用の在り方、年金との連携などが必要です。
あなたが60歳になったとき、「それでも働きたい」と思える社会であるために、
今こそ、この5%の意味を考えたいと思います。