65歳雇用確保、大企業100%達成の裏にある現実
厚生労働省の発表によれば、2023年6月時点で、
すべての大企業が65歳までの雇用確保措置を実施済みであり、中小企業も99.9%が達成しています。
数字だけを見れば、まさに「義務は果たされた」という状況です。
いかにも前向きな結果のように見えますが、
実際には多くの企業が「形式的な実施」にとどまっている可能性もあります。
●数字が示す「義務達成」の現実
65歳までの雇用確保措置が100%実施されたという報告は、制度上の目標を達成したことを示しています。
しかし、それはあくまで「形の上」の達成に過ぎません。
この義務を果たすために、多くの企業が採用したのは「定年延長」や「継続雇用制度」です。
具体的には、以下のような形態が一般的です。
・定年後に嘱託社員として再雇用
・賃金を抑えた形での継続雇用契約
一見、65歳までの雇用を支えているように見えますが、
実際には「給与の大幅減少」や「モチベーション低下」といった問題を抱えているケースが少なくありません。
数字の裏側にある実態を見逃してはいけません。
●70歳雇用努力義務の現状――数字が伸びない理由
一方で、70歳までの雇用確保措置については、大企業で25.5%、中小企業で32.4%と、
65歳雇用確保と比べて大幅に低い水準にとどまっています。
この背景には、次のような課題が隠れています。
・コスト負担への懸念:高齢社員の給与と生産性のバランスが取れない
・適切なポジションの欠如:高齢社員を受け入れる業務や職種が限定的
・本人の希望の多様化:必ずしも全員が70歳まで働きたいわけではない
単なる「雇用継続」を超え、働きがいや生産性を考慮した仕組みを整えなければ、
実効性のある70歳雇用の実現は難しいでしょう。
●「数字」のその先を問う――本当に必要なこととは?
大企業や中小企業の「達成率」に目を奪われると、数字の背後にある本質を見逃す危険があります。
真に問うべきは以下の点です。
1:労働市場での高齢者の役割再定義
高齢者を単に「定年後も雇う存在」と見るのではなく、彼らの知識や経験を活用して
生産性向上につなげる具体的な方策を模索すべきです。
たとえば、シニア世代の専門知識を活かしたプロジェクト型雇用の推進が考えられます。
2:高齢者自身のキャリアビジョン形成支援
高齢者が自らキャリアを描き、希望に応じた柔軟な働き方を選べるよう、
企業はサポート体制を強化する必要があります。特に教育訓練やリスキリングの機会提供が重要です。
3:社会的価値の共有
高齢者雇用が単なる義務ではなく、社会全体にとっての価値を持つものであるという意識を、
企業経営者、従業員、そして社会全体に広げていくことが求められます。
●結論:形式から実質への転換を目指して
65歳雇用確保措置の100%実施は、一見すると喜ばしい結果です。
しかし、その背後には、形骸化した仕組みや現場の矛盾が隠れています。
高齢者雇用を「数字の達成」から「実質的な価値創出」へと転換するためには、
労働市場全体での意識改革と、制度を超えた現場レベルの取り組みが不可欠です。
雇用延長は終わりではなく、働き方改革の新たな始まりです。
この視点を持つことが、これからの日本社会にとって重要な鍵となるのではないでしょうか。