人のコスト増時代、モノの値段はどう動くのか?
昨今、労務費の上昇を背景に取引価格の見直しが進んでいますが、現場では何が起きているのでしょうか。
公正取引委員会の調査結果によれば、発注者の約7割が労務費上昇を理由とする価格引き上げ要請に応じ、
価格協議を行ったとされています。しかし、その中身を詳しく見ると、まだまだ課題が浮かび上がります。
●調査結果のポイント
まず、労務費の転嫁率(受注者が要請した価格引き上げ額に対し、実際に引き上げられた額の割合)は
62.4%と前年度の45.1%から上昇しています。
一見、改善が進んでいるように見えますが、実際の現場では「価格協議をした」という事実が
必ずしもスムーズな合意や公正な価格転嫁を意味するわけではありません。
例えば、協議の過程で受注者が不利な条件を呑まざるを得ない場合も多くあります。
●なぜ価格転嫁が進まないのか?
価格転嫁の大きな障害の一つは、発注者と受注者の間に存在する力関係の不均衡です。
特に中小企業の受注者は、大手発注者との交渉において強い立場を取れず、
十分な価格引き上げを実現できないケースが後を絶ちません。
また、「価格協議に応じる」といっても、その結果が受注者にとって
納得のいく内容になっているかどうかは別問題です。
●本質的な課題と求められる変化
労務費が上昇しているにもかかわらず、発注者が価格の引き上げを
「コストではなく競争力の問題」として認識している側面があります。
つまり、価格を引き上げることで他社に対して競争力を失うことを恐れ、
受注者の要請を十分に受け入れないケースが多いのです。
この構造的な問題に対処するためには、以下のような対策が求められます。
1:価格転嫁ガイドラインの強化
公正取引委員会は価格転嫁の円滑化を目的としたガイドラインを設けていますが、
現場の実態に即したさらなる改定や、違反行為に対する罰則の強化が必要です。
2:交渉力の改善支援
中小企業に対して、発注者と対等に交渉するためのスキルや知識を提供する研修や支援策が求められます。
特に、交渉の基本的なフレームワークや法律的な裏付けを理解することで、
受注者は自らの立場を強化することができます。
3:業界全体での意識改革
労務費の適正な転嫁は、働く人々の生活を支えるための基盤です。
この意識を発注者・受注者双方が共有し、価格転嫁を適切に進めることが、持続可能な取引関係の構築につながります。
●だから、何が重要なのか?
労務費上昇の価格転嫁が進むことは、単なるコストの問題にとどまりません。
受注者の経営基盤を守り、結果的に労働者の待遇改善につなげるという社会的意義を持つ取り組みです。
単に「価格協議をした」という数字だけではなく、その内容や実態が伴っているのかを注視し、
現場の声を反映した政策を進めていくことが重要です。
労務費上昇がただの負担増ではなく、業界全体を健全にするきっかけとなるよう、
現場の課題に即した対応が求められています。